コウノトリの成鳥(左)とコサギ
兵庫県立コウノトリの郷公園は、山陰地方の豊岡市にあります。コウノトリの野生復帰が軌道に乗り、現在は半飼育状態にあるものと合わせて170羽余りに増えました。県と市といくつものボランティア団体からなる三重構造がうまく機能して、予想を超えた大成功を収めています(里地での野生復帰プロジェクトとしては、世界でも例のない成功)。
農家の方々の理解を得るまでにも、並々ならぬ努力がありました。「コウノトリは稲を踏み倒す害鳥だ」と言う人のために、1000株の稲のうち、踏まれるのは数十株で、そのうち再び起き上がれない株は数株にすぎないことなど、科学的なデータで実証しました。地に足の着いた取り組みが、今、実を結んでいるのです。
この公園は、@保護・飼育、A調査・研究、B普及・啓発の三本の柱で成り立っていますが、このたび、Bの強化ということであーすわーむが招かれ、私たちが持つ環境教育のノウハウを披露する機会をいただきました。
巣塔の上のヒナは巣立ち間近.すでに足環がつけられている
7月6日の午前中、インタープリター(自然ガイド)に必要な自然観や技術、メッセージを産み出すために欠かせない調査体験、運営と経営、教育的意義などの講義をしました。特に、自然公園や環境教育施設に行かないと自然がないかのような教育はよくなく、子どもたちにはふだんから家のまわりの自然にふれさせておく必要があることを強調しました。
午後はフィールドワーク実習で、地域ボランティアの方も交え、魚や水生昆虫などを捕まえました。そして、それらを種として見るばかりでなく、個体識別して追跡したり、生物群集を意識したりして見ると、有機的でかけがえのないフィールドが浮かび上がってくることなどをお話ししました。さらに、進化的背景を考えれば、知らないことでも自信を持って伝えられることなどをお話ししました。
(左)すっかり環境に馴染んだ巣塔に、コウノトリも馴染んでいる
(右)夏に水田の「中干し」をする際、生きものを避難させる「逃げ場」.畦の下を塩ビのパイプが何本も通ってコリドーとなっている
コウノトリは環境のバロメーターとしての役割を担って放鳥されています。そうしたことは、ややもすると小難しい話になります。私たちも、外来種や希少種の問題に携わるとき、小難しくなりがちなのをどう克服するかの壁によくぶつかります。「わかりやすさ」も大切ながら、「小難しさ」を簡単に捨ててはいけないと思います。経営の基盤こそ違うものの、環境教育に共通の課題に直面しているもの同士、よい交流が持てました。
(左)農家の方がコウノトリのために水田を放棄してくれた谷戸の湿地.周辺はラムサール条約登録湿地
(右)まだプロジェクトがこれからという頃、偶然ロシアから飛来した野生のコウノトリ「ハチゴロー」が何年か居ついた戸島湿地.ハチゴローはコウノトリの好む環境を自ら示し、プロジェクトにかかわる人々に大きな自信を与えてくれた
(石塚)